2021.12.07
コンサルタントが変える未来

加速する「地方創生DX」 始まりはツーリズムにあり

ディレクター 平林

観光産業の本当の成長はこれからやってくる――。2030年までに訪れる近未来のツーリズムは、これまでの観光ビジネスの概念を根底から覆し、その地域に根ざすあらゆる産業と結びついて新たなビジネスチャンスを生み出すものへと進化するそうです。その起爆剤となるのが、地方創生DX(デジタルトランスフォーメーション)。巨大なデータベースを基盤として地域を活性化する活動が、観光の文脈から生まれようとしています。

観光を起点に、あらゆる業界にチャンスをつくる

――コロナ・パンデミックによって観光業界は大打撃を受けました。この先の見通しはどうなるのでしょうか。

コロナ禍前の統計ですが、国連世界観光機関(UNWTO)によると、観光産業は世界のGDPの約10%を占め、10人に1人の雇用を生み出しているといいます。この10年間で見ても、世界の観光収入の成長率は約54%で、GDPの成長率44%を大きく超えているのですね。2019年における世界の観光客数は約14.6億人でしたが、2030年には18億人に達するとされています。

このように長い目で見て世界の観光産業は成長基調にあること、また今後、ワクチン接種証明書、いわゆるワクチンパスポートの活用が世界レベルで進み、衛生面などの対策や法規制も徹底されるだろうことを考えると、失われた市場はいずれ必ず戻ってくると言っていいと思います。

大事なことは、それまでの間に何をするかです。1つは国内旅行の推進が挙げられるでしょう。日本ではインバウンド(訪日外国人数)が2019年に年間3180万人を記録して過去最高を更新しましたが、その後の目標が潰えたままで、あと2、3年は戻らないと見られています。この空白を埋められるのは国内旅行しかありません。それに際して求められるのが、地域資源の見直し。つまり、観光コンテンツの再発掘と磨き上げです。

――具体的にはどのようにしたら地域の強みをつくれますか?

これまで観光とは無縁と思われてきた多種多様な事業者との連携、これが1つの契機になると思っています。地場に根を下ろす事業者の中には、観光との直接的な結びつきはなくても、地域独自の資源や特色に支えられて事業を営んでいる方々が少なからずいるはずです。そうした「外の視点」から改めて観光を捉え直すことで、新たなコラボレーションや付加価値が生まれる可能性があるのです。

例えば、農業や林業といった一次産業はどこの地域にもあります。その特産物を食品や料理と結びつけて観光の呼び水にすることはできますね。同じように、農作業や農産物の加工そのものを体験型の観光資源と捉えることができますし、豊かな自然の中で心身を癒やし、健康を回復するウェルネス・ツーリズムも考えられます。実際、コロナ禍の影響で、そうしたニーズは高まっているといえます。

他にも、製造業、医療・健康産業、スポーツ産業、文化産業、金融業、教育・人材産業などと、幅広い領域に可能性があります。一般に観光業と聞いて思い浮かべるのは、宿泊業、飲食業、土産物店が主なところだと思いますが、市場がシュリンクしている今だからこそ、もっと別の視点から客観的に地域の資源を見つめ直す必要があるのだと思います。

地域の巨大なデータベースが未来を変える

――観光業の裾野が広がっていく、その先にはどんな未来を描くことができるでしょう?

実は私を含む所属チームで今、『ツーリズムの未来 2022-2031』と題する書籍を執筆中です(日経BP刊/2021年12月24日発売予定)。2030年に向けて変わりゆくツーリズムの概念やビジネスモデル、必要とされるテクノロジーなどについて包括的に論じたものですが、そこから少し話題を拾ってお話ししましょう。

まず、観光業の未来を語るうえで欠かせないトレンドの一つが、デジタル化の流れです。観光地としての地域づくりに向けた戦略を立て、集客力を引き上げながら地元への誇りと愛着を育てていく取り組みを「観光地経営」といいますが、経営である以上、これにはデータに基づく分析が不可欠です。誰が何を目的にどこを訪れ、どんなことにどれだけお金を使っているか。こうした情報をデータとして蓄積し、分析する。収益を上げるのに当然と思えることが、観光地においては意外とできていない場合が多いのです。これをデジタル技術によって改善していく、そうした動きがここ2、3年で加速するでしょう。

ただし、個々の事業者やお店がデータを集めて分析するだけでは不十分です。その観光地全体としてはどうなのか、地域が主体となってデータベースを構築し、管理しなければ効果は望めません。また、その実態や傾向などの分析結果を可視化して、地元の事業者が活用できるようにすることも大切です。

そこで重要なポイントとなるのが、先ほど申し上げた観光業とリンクする産業の幅広さです。それらすべてが吸い上げたデータを統合するとどうなるか。もはや観光業の枠を超えた地域の総合産業データベースがそこに出現する。これは地域活性化にとって非常に大きな意味を持ちますし、デジタルとツーリズムの掛け合わせが地方創生に果たす役割の大きさを物語るものともいえます。いわば、観光を起点とする「地方創生DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

――そうした動きはもう現実に始まっているのですか?

はい、私たちがご支援しているプロジェクトも徐々に増えているところです。例えば、北海道の釧路エリアでは、釧路市をはじめとする8市町村の連携で、AIチャットボットを活用した観光案内の試験運用が始まっています。観光客が必要とする情報を、会話式ロボットを使ってウェブやスマートフォンのアプリで提供するサービスです。

まだ実証段階なので「バーチャル観光案内」といった位置づけですが、近い将来は、チャットボットが観光客から直に集めた情報をデータベース化し、店舗などへの送客や消費拡大、観光政策の強化などに役立つプラットフォームとして運用することを計画しています。

インタビューを受ける平林の画像

戦略と実践――コンサルタントに必要なバランス感覚

――まちづくり」に近い印象を受けますが、コンサルティングファームにはそうした役割もあるのですか?

政策提言という意味では、まちづくりや地方創生にかかわるファームは他にもあります。ですが、それに終始せず、地域にまで入り込んで実践に参加するコンサルタントはそういないでしょう。先ほどの「くしろ観光案内チャットボット」でいえば、データ利活用の仕組みを提案することはできても、実際にその仕組みを構築し、自らデータの収集・分析をする機能まで備えることは難しい。それをしているのが、われわれEYです。

まちづくりには、企業や自治体、市民団体、住民など、さまざまな利害関係者の間に入って合意形成のための調整役を果たす存在が必要です。そうしたプロジェクトマネジメント的な役割と、実地に役立つソリューションの提供。あるいは、政府機関とも連携した戦略的支援と、それに沿った具体策の実行。私は、これらの両面をバランスを取りながら同時に進めることが大事だと思っています。

――バランス感覚ですね。それはコンサルタントに求められる資質でもありますか?

そういえると思います。私たちは特定の企業に対してサービスを提供する一方、地域全体としての最適解が何であるかも考えなければなりません。民間の利益と公共の利益を同時に追求するにはバランス感覚が必要ですから。

ツーリズムというのは、平和の実現にも通じるものだと私は考えています。「持続可能なまちづくり」の意味でもそうですし、また、ツーリズムが本質的に備えている「自分とは異なるものとの出会い」を促す役割が、他者とのコミュニケーションを通じて「異」を理解するという、社会平和の基本とも合致するからです。

EYのパーパスであるBuilding a better working world(より良い社会の構築を目指して)に基づき、Japan Consultingでは「経済で社会平和を、日本から。」という言葉を定め、社会課題の解決に向けてあらゆる角度からアプローチを進めているところです。バランス感覚とともに、そうした気概もぜひ持っていただきたいですね。

そして、最後にもう一つ、大切なことがあります。地域に足を運び、地域の人と言葉を交わし、地域の魅力を肌で感じることが好きかどうか。YESと自信を持っていえる人と一緒に働きたいと願っています。

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