2021.12.21
コンサルタントが変える未来

水産DXで実現する サイエンスの社会実装

マネージャー 田丸

FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、水産物の消費量・生産量はともに増大傾向にあり、漁業資源全体の約9割以上(94%)が「これ以上漁獲すると持続不可能になる水準」で漁獲されている可能性があります。また、天然資源の有効活用と養殖生産の拡大が必要と考えられており、解決の鍵を握る「デジタル化」を価値あるものにするために、研究職・技術職出身の「第一次産業コンサルタント」の活躍に期待がかかっています。

増大する水産物の消費ニーズ、膨れ上がる漁獲量

――水産物の消費量は世界的に増え続けていると聞きました。やはり人口増加が関係しているのでしょうか。

そうですね、人口が増えることに加えて、世界の所得水準が右肩上がりに推移していることが一番の要因でしょう。水産物の需要というのは、所得の階層が上がれば上がるほど高くなるのです。

FAO(国連食糧農業機関)の「世界漁業・養殖白書」の2020年版によると、魚介類の一人当たりの年間消費量は世界平均で20.5Kg、過去最高値を更新しました。これは2018年の数値になりますが、この50年間で2倍以上に増加しているのですね。

その要因としてFAOは、新興国や途上国では経済発展に伴って、芋類中心の主食から肉や魚を多く食べる生活へと変化が進んだこと、また、人口増加や食品流通の国際化によって、食品自体の購入量が増えていることなどを挙げています。健康志向というのもあるようですね。

――需要が増えているということは、供給量も増大しているわけですね。

はい、生産量も上がっています。1950年に約2000万トンだった世界の魚介類総生産量は、2018年には約1億7900万トンとなっています。このうち養殖は8210万トンで約46%を占め、過去最高でした。天然水産物のほうが割合は高いわけですが、これは1990年前後からほぼ横ばい。天然ものの漁獲量は実はもう、あと6%ぐらいしか増やせる余裕がないともいわれます。そうなると、増大する需要を賄うために、これからますます養殖生産量が増えていくことになるでしょう。

「暗黙知」の可視化と共有から始まる水産DX

――養殖漁業が拡大することによって、近い将来どのような変化が起こりますか。

養殖が増えるからというより、養殖に頼らざるを得ない背景の一つともいえますが、消費ニーズの多様化に対応するためのデジタル化が加速するでしょう。水産DX(デジタルトランスフォーメーション)やスマート水産業と言われるものです。

健康や医療、食物アレルギーへの対応もそうですが、食べたいときに食べたいものを食べるという欲求を突き詰めていくと、スマートシティ等との親和性の観点からもAIなどを活用した自動調理のニーズがこれから高まっていくと思われます。それに応えるには、指定の食材をネット環境から素早く調達する流通の仕組みが不可欠です。また、品質が常に一定に保てるよう定量的に評価しながら、鮮度良く保存し、きちんと安定供給を続けるためのプラットフォームも必要になるでしょう。

そうした流通の仕組みに応じて、生産体制も変えなければなりません。品質のばらつきを極力減らすため、どんな環境でも持続できる安定生産のシステムも必要です。より少ない餌で効率的に育て、エネルギー消費を抑えて、カーボンニュートラルにも対応する。こういうことはやはり、天然より養殖のほうが親和性は高いといえます。

――天然ものの漁業は衰退していくのでしょうか。

これまで生産者が経験や勘によってその場で瞬時に判断していたような暗黙知、これを可視化できるかどうかが鍵になると思います。熟練者の意思決定を代替するシステムといったらいいでしょうか。

それにはまず、漁場情報を共有化することが重要です。どこに魚群がいるかわからない大海原を探し回り、何日間もかけて操業するのが漁業です。地理的な特性や気象・海象によっても漁場の有り様は千差万別ですから、誰かが得たその情報を可視化して、みんなで共有する、そういう変革が求められています。

ただ、その取り組みはまだ始まったばかりです。海洋上のさまざまな機器に取り付けたセンサーを通じて、ようやくデータが取れるようになってきたところ。そのデータを集めて分析して統合し、何らかの価値を見出してビジネスに結びつける、という段階に進めるかどうか、これからが正念場です。

コンサルタントが担う未来の漁業システムを構想する力

――漁業に変革を起こすための課題はどんなところにありますか。

日本が持つ一つ一つの要素技術はかなり高いレベルにあり、知見も集積されています。ですが、社会実装に向けて、それらを組み合わせてシステム全体として構想する人が極めて少ないのが実態です。生産量を増やすには新規参入の事業者にも門戸を開くべきですが、全体像が見えないので動きづらくなっています。

漁業の専門知識に加えて、DXの技術と知見、人材と資金を呼び込む力、そういった機能を備えて多様な関係者の間をつなぎ、有機的に結びつけてデザインを描く。そんな仕事ができる人なり組織なりの存在が必要です。

――それがコンサルタントの役割ということですね。

そうありたいと願っています。今、その試金石にもなり得る取り組みを高知県で進めています。カツオ一本釣りとマグロ延縄漁業の経営改善プロジェクトなんですが、デジタル技術も使って漁業の高度化、スマート化を図りながら、意思決定プロセスや事業戦略策定などについてご支援する事業です。

高知はカツオで有名ですが、実は事業としての経営状況は必ずしも順風ではありません。しかしここが活力を失えば、高知の観光にも文化にも大きな影響を及ぼすことになる重大事です。漁業の話をしていますが、実態は地域の問題にほかならない。そうした視点も求められる案件です。

こうした事業では地元の方々、とりわけ漁業関係者といかに信頼関係を築くかも大きな課題です。限られたコストと労力で最も効率よく漁獲量を上げるために、漁船の速さや移動距離、操業時間はどうあるべきか、例えばそんな数値モデルをつくっても、初めに信頼関係がなければ見向きもされないかもしれない。そういう世界です。

水産DXについてコンサルタントの役割をもう一つ挙げるなら、水産業の未来はどうあるのが望ましいか、その方向性を見極めて、その実現にとって必要なDXのあり方を構想することでしょう。DXは手段に過ぎません。間違っても「DXで何をしよう」という順序で発想しないことが大切です。

インタビューを受ける田丸の画像

EYSC――サイエンスを社会実装につなげるための舞台

――EYSCではどのようなチームでプロジェクトを進めているのですか。

ここには一次産業コンサルティングの専門チームがあります。そもそも業界全体を見渡しても、一次産業の専門知見があってビジネスにも通じている、そういうコンサルタントはほとんどいません。ならばEYがやりましょう、ということで立ち上がったチームです。ですから、メンバーのバックグラウンドも農林水産とりまぜ、非常に多彩です。

EYはグローバル全体で「Building a Better Working World(より良い社会の構築を目指して)」というパーパス(存在意義)を掲げ、社会課題に対してはどのファームよりも積極的に取り組んでいる企業です。一次産業の未来を創造する仕事に、まさに適任なのです。

私もそうですが、研究職出身のコンサルタントが集まりやすいことも特徴的です。研究者というのは元来、お金儲けのためというよりも、社会に役立つ何かをするために今ここにいる、そんなモチベーションを持つ人が多いと思います。ですが、残念ながら、その成果がなかなか社会実装と結びつかないのが現実です。私自身、そんなもどかしさを脱するために、コンサルティングファームの門を叩きました。

社会が求めているものは、必ずしも最先端の研究成果とは限りません。すでにある知見を組み合わせ、工夫を凝らし、新たな価値を創造して提供することが自分の役割ではないか、私はそう考えました。同じようにサイエンスを社会実装につなげたいと考えている研究者や技術者の皆さんの、数少ない受け入れ先にこの会社がなれるよう道を拓きたい、そう考えています。

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参考資料

Food and Agriculture Organization of the United Nations The State of World Fisheries and Aquaculture
https://www.fao.org/3/ca9229en/ca9229en.pdf

水産省 水産白書
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_3.html

数字で見る水産物の世界(マルハニチロ)
https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article85/

高知県かつお・まぐろ漁業の経営体による事業戦略の策定支援
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/040101/2021070800220.html

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