2021.11.02
コンサルタントが変える未来

スポーツ起点のエコシステムが 地域の新しい未来を創る

アソシエートパートナー 岡田

スポーツを考えるとき、発育や体を鍛えるという体育的な発想がいまだに根深く、エンタテインメントとしての楽しみ方や、利益を生む主体としての見方は根づいてきませんでした。そこに今、徐々にですが変化の波が押し寄せています。スポーツコンテンツを起爆剤として、持続可能な社会的・経済的システムを創出しようとする次の世代の動き。地方創生の新しい姿が日本でも多く形をなそうとしています。

スポーツDXで拓く成長産業への道

――日本のスポーツビジネスについて、現状をどのようにご覧になっていますか?

ひと言でいえば、マーケットは必ず伸びる、いや伸びるための転換期に今まさに来ていると言っていいでしょう。2012年の時点で5.5兆円とされたスポーツ産業の国内市場規模を2025年までに15兆円に拡大すると、スポーツ庁と経済産業省が目標を立てたのが2016年のこと。これは閣議決定され、「官民戦略プロジェクト10」の一つとして当時の「日本再興戦略」にも盛り込まれました。

ところが、現実にはコロナ禍の打撃などで目算は大きく外れ、市場規模は逆に落ち込んでしまいました。もちろん、それはスポーツ産業に限ったことではありません。例えば、音楽やステージといったライブ・エンタテインメントの市場はコロナ禍前に6000億円を超えていましたが、昨年は5分の1程度にまで縮小しています。

ですが、その一方、デジタル配信の市場は急拡大しています。オンラインライブですね。これが昨年1年で約450億円。それも秋以降の2、3カ月で急激に膨れ上がった。つまり、世の中の外的要因に応じてビジネスの形が変わる、その大きな役割を果たすのがデジタルであるという構図です。DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって新たな産業が芽生え、コロナ後にはもともとあった産業との掛け合わせにより、さらに大きく市場が成長していく可能性があるわけです。

――スポーツビジネスにも同じことが起こるでしょうか。

そうでなければなりません。これまでのスポーツビジネスの基本形は、興業をやり、チケットを売って、スポンサード契約をするといった「権利を売る」ビジネスでした。いわゆる、ライツビジネス。その最たるものが、メディアへの放映権の販売です。テレビを観る視聴者がいるからお金になる。しかし、SNSやOTTが全盛期を迎え、その仕組みが土台から揺らぎつつあります。

オンラインのデジタルメディアを使って、誰もが好きなコンテンツを見たり配信したりできるようになり、消費者の持つ選択肢が格段に広がりました。そうであれば、コンテンツホルダーである競技団体やビジネスの担い手もまた、それに応じて変わらなければならないはずです。スタジアムでの演出も、コンテンツのつくり方も、提供の仕方も、楽しみ方も変わる。それらすべてを紐づけて変革を起こす、その触媒となるのがDXであり、今がその好機だと思っています。

インタビューを受ける岡田の画像

「スポーツによる価値循環モデル」という近未来像

――ではその先に、近い将来どのようなビジネスが拓けていくと考えられますか?

スポーツコンテンツを起爆剤とする地域活性化のエコシステム(ビジネス生態系)が脚光を浴びることになるでしょう。

私は、スポーツ産業は「エンタテインメント」を基軸に捉えるべきだと考えています。競技者と観戦者が一体となって織りなす感動体験はその極みです。この強大な「熱量」が映像メディアなどを通じて人々の共感を呼び、地域のスポーツ振興や健康志向とも相まって一種のコミュニティを形成する。いわば、社会的価値の創出です。すると、その価値を求める人たちの経験欲求を満たす消費行動や、さまざまな事業の相乗効果によって地域の経済的価値も高まります。飲食や観光需要の喚起による効果もあるでしょう。

そうして街の価値が上がれば、住民満足も得られ、人口増加や企業誘致、ひいては税収増も期待でき、新たな価値創出に向けた再投資へとつながります。つまり、持続的価値が生まれる。このようにして継続してサイクルを回していく仕組みを、私たちEYでは「スポーツによる価値循環モデル」と呼び、各地でその推進に力を入れているところです。

――スポーツによる価値循環モデルの拠点づくりはどうされますか。

価値創出のプラットフォームとして最も期待できるのはアリーナです。競技場としてはもちろん、ライブコンサートもできますし、企業の集会場としても、運動会のような地域イベントにも使えます。

ただ、これまでは多くの場合、そうした施設は自治体が建設し、主に体育増進のために運営されてきた面があります。スポーツというよりは体育。成績を競い合い、健康づくりをする場であって、楽しむ場所とは言いがたく、ましてや利益を生む装置ではない。そうではなく、エンタテインメントの見地から、観ても参加しても楽しいスポーツというコンテンツを生産する場所としてアリーナを位置づけることがポイントです。つまり、アリーナそれ自体をリアルなメディアとして、人とモノ、金、情報が集まる媒体と捉えるのです。

――具体的な取り組みがあれば教えてください。

通販で有名なジャパネットホールディングスが手掛けている「長崎スタジアムシティ」は、民間企業主導の地方創生モデルとして注目に値します。サッカースタジアムやアリーナのほかに、商業施設、ホテル、マンション、オフィスなども備える超複合施設で、2024年の開業に向けて準備が進んでいます。

このプロジェクトの一環で、ジャパネットは国内男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)への参入資格を得て、クラブチームの「長崎ヴェルカ」を創設しました。当社もこの長崎ヴェルカとパートナー契約を結び、長崎スタジアムシティと連動したコンテンツ開発や、ICT活用による価値向上に向けた支援などを実施しています。Bリーグは、今後のスポーツコンテンツ発展の起爆剤になると、私は考えています。

「感動体験」を出発点に「社会平和」を実現する

――スポーツビジネスの未来に向けたコンサルタントの役割とは何でしょう?

こうした地方創生につながる大型プロジェクトに共通する課題は、全体を理解し計画して実行していくプロデューサー的人材が圧倒的に不足しているということです。その役割をコンサルタントが果たす、またそうできるだけのリソースを備えたコンサルティング集団でなければならないと思っています。

では、どのようなリソースが必要になるか。スポーツビジネスはもとより、メディアビジネス、コンテンツビジネスに通じていること、行政や法制度に関する知識、官民連携のスキームを構築するノウハウ、PFIなど資金調達の手法、そしてDXなどと、枚挙にいとまがないほど多岐にわたります。これらを総動員できるだけの人材と知見を備えていることが、われわれプロフェッショナル・ファームの最大の強みです。

――その中でも「EYであること」のアドバンテージは?

ビジネスにしろ、公共部門にしろ、テクノロジーにしろ、あるいは産業別のカテゴリーにしても、EYが縦横に走らせるセクターの至るところに何らかの形でスポーツに通じた人材が存在することが、まず一つ。案件に応じてそれらを柔軟に組み合わせたチーム編成により、多種多様なプロトコルに対応可能であることが第二の点。プロトコルというのは通信規格ですが、要するにどんな分野の「言葉」も話せる能力と思ってください。さらに、その力を駆使できる現実の舞台、つまりプロジェクトの現場を数多く抱えていることも強みです。現場やクライアントの実ビジネスを知らないコンサルティングは、絵に描いた餅に過ぎません。

そして、最後にもう一つ。これが一番大事なことですが、EYの存在意義を端的に表したパーパスである「より良い社会の構築を目指して(Building a Better Working World)」の理念上に、われわれのスポーツビジネスの目指すところがある点も強調しておきたいと思います。目先の利益に走るのではなく、スポーツの感動と熱量と共感を起点に、誰もが元気になれる社会平和を求めていく。これを本気で追求していけることが、この仕事の面白いところです。