EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(EYSC)

 
2023.03.07
コンサルタントが変える未来、パートナー

電力コンサルタントが描くエネルギー業界の「長期的価値」

アソシエートパートナー 椎橋

電源の脱炭素化と電力の自由化。日本の電力システムを取り巻く大きな2つの潮流の中、国際的な資源難、燃料価格高騰の動きとも相まって、エネルギー安定供給という電力事業最大の使命が危ぶまれています。折しも施行された「配電事業ライセンス制度」や「再エネFIP制度」を契機として、コンサルタントはどのような支援を提供できるでしょうか。最前線を知るコンサルタントに聞きました。


脱炭素化の中で顕在化する電力システムの「ひずみ」

──ウクライナ情勢などの影響で、燃料価格の高騰や電力の供給不安といった問題が顕在化しています。電力業界を取り巻く最近の状況についてどう見ていますか。

椎橋 カーボンニュートラルに向けた脱炭素化、脱化石燃料の流れ、またそれに伴う再生可能エネルギー主力電源化の動き、こういった方向性は間違いなく進んでいくでしょう。2021年10月に出された政府の第6次エネルギー基本計画によると、2030年度までにCO2排出量を46%削減することを目標に、電源構成に占める再エネの割合を現状(2019年度)の18%から36〜38%へ倍増することになっています。その反面、石炭・石油・天然ガス(LNG)といった化石燃料由来の電源は、合計で現状の76%から41%へとほぼ半減、CO2を排出しない原子力発電の割合も、6%を20〜22%に引き上げる計画です。

このように再エネ中心の電源構成への転換は、国際的な潮流にも乗って今後ますます加速することが見込まれます。ただ、資源に乏しく、エネルギー自給率が12.1%(2019年度)に過ぎない日本の特殊事情を考えれば再エネの普及を進めるにしても、他の電源とのバランスの取れた組み合わせが必要ですし、急ぎすぎず段階的に取り組むべきではないかと考えています。

──他の電源とのバランスはなぜ必要なのでしょう。

椎橋 エネルギー政策の要諦は「S+3E」であるといわれます。安全性(Safety)を大前提として、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)、安定供給(Energy Security)の3つを同時に満たすことが重要だという考え方です。今は環境面に注目が集まり、脱炭素の追い風で再エネ化が進んでいますが、一方では国際的な情勢や円安の煽りで燃料調達に支障を来し、化石燃料の高騰や電力の需給逼迫といった危険にもさらされています。つまり環境性はよくても経済性や安定性の面で不安があり、バランスがよいとは言えません。

再エネというのはご存知のように、天候などの自然環境の影響を受けやすく、安定供給の面で弱点があるため他の電源と適切に組み合わせることによって需給バランスを調整しなくてはなりません。本来はその調整役として、安定性に優れる火力を機能させる必要があるわけですが、脱炭素化の流れで新たな投資はしづらくなり、またここ20年来の電力自由化の流れの中で採算性の低い火力が減らされてきた背景もあります。

説明をする椎橋

日本の電力システムは元来、電気をつくる「発電」、それを各地に運ぶ「送配電」、消費者に供給する「小売」、この3つを地域ごとに分かれた大手電力会社が独占する形で安定性を維持してきました。しかし、それでは競争が働きにくく、新規参入を認めるよう段階的に自由化することになったものの、新たなプレイヤーが責任ある主体として「S+3E」に充分に貢献したかどうかは評価が分かれるところです。

このような脱炭素化、自由化の大きな流れの中で電力システムに徐々にひずみが生じ、バランスを欠くことになってきたのが最新の状況だといえるでしょう。

健全な新規プレイヤーの存在が日本の電力を救う

──そのような閉塞した状況が改善される兆しはあるのでしょうか。

椎橋 そうですね。このままではサステナブルではないということを、行政も大手電力会社も新規参入組も真剣に意識しはじめて、現実的な議論を進めようとする機運は高まっていると思います。

そのうえで重要なのは、従来の電力業界にすべてを委ねるのではなく、別の業界であっても供給責任をしっかりと果たせるような新規プレイヤーの参入を促すことだと思います。そうした新興勢力と電力会社が健全な競争環境のもとで切磋琢磨しながら発展していける、多様性のある業界への変容が求められています。

──自由化によってそうした新しいプレイヤーが増えていくわけですね。

椎橋 そこが難しいところです。2016年に電力小売の全面自由化があり、他業種からも多くの新規参入者が現れて家庭や企業に電気を売るようになりました。そうした「新電力」の登録数は現時点で700社を超えていますが、昨今の価格高騰などもあり、累計で100社近い事業者が事業の休廃止や解散に追い込まれているのが実状です。新電力各社は電力会社の高価格帯を攻めることで、適正価格への是正や自由化の恩恵をより広範囲に行き渡らせることに貢献してきました。その一方で、そもそも新電力には供給力確保の義務はあっても発電所の保有義務はなく、需給管理も外部に委託できるなど参入障壁が低く設定されていますので、確かにプレイヤーの数は増えましたが、安定供給の面では必ずしも十分に機能してきたとはいえないのです。

同様に再エネの発電事業者も、「FIT(固定価格買取制度)」と呼ばれる優遇策の追い風を受けて急増しましたが、需給調整などに関する責任を負うことはなく、安定供給の責務とはあまり関係のないところで再エネ発電量を増やすことに終始してきたといえます。

そうした中でも、長期にわたって供給力を安定的に確保するために電力量ではなく「将来の供給力」を取り引きする、「容量市場」という制度が2020年に始まったのは前進だと思います。また、2022年4月には改正電気事業法が施行され、「配電事業ライセンス制度」が始まりました。これは配電用変電所から消費者へ電気を送る配電事業への新規参入を認める制度で、電力の安定供給やレジリエンス強化、コスト削減を狙いとしています。

長期的視点で追求するエネルギーの安定供給

──コンサルタントとしては、多様なプレイヤーによる健全な競争を促すためにどのような支援をしていかれますか。

椎橋 既存のプレイヤー、新規のプレイヤー、それぞれに対するご支援を加速させたいと思います。前者に対しては、例えば再エネ事業者に対するルールが変わり、FITに代わってFIPという価格変動のリスクを事業者が負う制度が始まりましたので、それに伴うリスク管理などが挙げられます。小売についても事業者がより供給責任を問われる体制に変わってきますので、コスト構造の転換に伴う収支管理、リスク管理の高度化が必要でしょう。

後者に向けては、長期にわたる投資回収にも耐えうる資金力やインフラビジネスに対する知見を備え、電力事業のさまざまなリスクを引き受けることができるプレイヤーの発掘と支援を進めています。特に配電事業の自由化を受けて、地域の電力事業に多様な企業が参加して活性化すれば、その地域の電力供給力が強化され、激甚化する自然災害の備えにも役立つでしょう。そうしたエネルギーの地産地消、あるいは電源の分散化といった流れにも貢献できると考えています。

コンサルタントの基本的な役割は、多面的な視点からファクトを押さえ、課題を設定して解決策を描き、それが画餅に終わることのないよう実行支援に力を尽くすことだと思っています。エネルギーに関しても、再エネだけに目を奪われることなく、さまざまな側面から将来像を読み解く努力を続けなくては、クライアントはもとより日本の未来を拓くことはできません。

──これからコンサルタントを志す方へのメッセージをお願いします。

椎橋 カーボンニュートラルの実現をはじめ、電力・エネルギー業界は非常に大きな課題と向き合う挑戦の場です。クライアントの課題が業界の課題であり、ひいては社会全体の課題でもあるという世界において、目先の利益に捕らわれることなく長期的な価値を求めて働きたいという方に向いているでしょう。

EYが全世界に共通して掲げるパーパス「Building a Better Working World(より良い社会の構築を目指して)」は、まさにそのような課題に立ち向かうコンサルタントの存在意義を表したものです。賛同していただける方はいつでも歓迎です。

参考リンク:

第6次エネルギー基本計画
資源エネルギー庁/エネルギーの今を知る10の質問
資源エネルギー庁/小売電気事業の在り方等について
資源エネルギー庁/配電事業の参入許可申請・届出等

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